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東京高等裁判所 昭和24年(新を)2131号 判決 1950年3月04日

控訴人 被告人 荒川幸夫

弁護人 新谷春吉

検察官 渡辺要関与

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審の未決勾留日数中百五十日を被告人が言渡された刑に算入する。

理由

本件控訴の趣旨は末尾に添附してある弁護人新谷春吉作成名義控訴趣意と題する書面記載の通りである。これに対し当裁判所は左の如く判断する。

論旨第一点について。

本件は少年事件であるからその勾留については少年法によつて刑事訴訟法とは多少異なつた取扱を受けるのである。それで右両法を照しつつ記録によつて本件の勾留の適否及び効力を検討して見る。被告人は昭和二十四年三月二十八日巡査に逮捕状により逮捕せられ同日司法警察員に翌二十九日検察官に順次に送致せられ同日検察官から勾留の請求があり翌三十日裁判官の勾留状の発行即日執行せられたものであるが以上は刑事訴訟法の手続によつたものである。しかうして少年事件は少年法第四十二条によつて総て一度家庭裁判所に送致すべき建前となつておるので検察官はこれを家庭裁判所に送致し同裁判所の裁判官は昭和二十四年四月七日少年法第十七条第一項第二号によつて少年観護所送致の措置をしたが同裁判所は刑事処分を相当と認め同法第二十条によつて同日決定を以て東京地方検察庁検察官に送致した。この場合においては同法第四十五条第四号によつて前記観護の措置はこれを勾留とみなしその期間は検察官が事件の送致を受けた日からこれを起算することになつており刑事訴訟法の勾留の起算点について特例が設けられておるのである。検察官は右送致を受けた日である右四月七日から十日以内である同月十三日本件起訴をなしたのであるから本件勾留の効力は依然持続されており何等不当勾留はない。論旨は少年法における勾留に関する特例を看過し専ら刑事訴訟法にのみ立脚して立論したもので理由がない。

論旨第二点について。

被告人は当時築地警察署の代用監獄に在監中の者であつたがこれに対する起訴状の送達は同送達報告書によると送達の場所を「千代田区霞ケ関一ノ一ノ一警視庁刑事押送係」とし受送達者を「築地警察署在監警視総監」として昭和二十四年四月十八日右場所に送達せられていることは論旨指摘の通りである。右送達の方法が民事訴訟法第百六十八条の規定に適合しているか否かの判断は暫く置く。凡そ送達ということは書類を特定の人に手交する手段に過ぎないのであるから手段に何等かの過誤があつても兎に角書類が法定の期間内に送達を受くべき者の手裡に受領せられるならば送達は完全にその目的を達し手続の違法は救済せられ右現実に受取つた時において送達が有効になされたものと認むべきである。しかうして被告人は本件起訴状の謄本を築地警察署において右四月十八日頃手交せられたことを当公廷で自認しているから本件起訴状の謄本はその起訴の日である昭和二十四年四月十三日から二ケ月の法定期間内に送達せられたものというべきで起訴の効力は依然持続している。従つて本件送達方法の適否を判断する迄もなく論旨は理由なきものとする。

以上の理由によつて本件控訴を理由なきものとし刑事訴訟法第三百九十六条に従つて主文の如く判決する。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意書

第一点原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明かな法令の違反がある。

刑事訴訟法第二百五条及第二百七条の規定によれば検察官は司法警察員から逮捕状により逮捕された被疑者を受け取り留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に被疑者の勾留を裁判官に請求し被疑者が勾留された事件につき勾留を請求した日から十日以内に公訴を提起しないときは検察官は直ちに被疑者を釈放しなければならず、やむを得ない事由があるときに限り裁判官に請求して勾留の期間を十日間延長して貰うことが出来るに過ぎない故に検察官が勾留を請求した日から十日以内に公訴を提起せざるに拘らず被疑者を釈放せず又裁判官に請求して勾留期間十日間延長の裁判を得ざるに拘らず勾留を続け最初に勾留を請求した日から十日以上を経過して公訴を提起したときは右旧刑事訴訟法第二百八条に違反したものであり右違反は判決に影響を及ぼすこと明かであるから右公訴に基く判決は破棄せらるべきものと解します。

これを本件について見るに検察官が警察員から逮捕状により逮捕された被疑者を受け取り昭和二十四年三月二十九日裁判官に被疑者の勾留を請求し裁判官は翌三月三十日被疑者に対し勾留状を発して勾留したことは記録添附の勾留状(一〇二丁)の記載により明かである。果して然らば検察官は刑事訴訟法第二百八条により同年四月九日迄に公訴を提起するか或は身柄を保釈するか孰れかの手段を採らなくてはならないのにこの間公訴も提起せず又釈放した事実も認められない。而も裁判官に勾留期間の延長を請求した事実もなく従つて裁判官に於て十日間の延長をした事実なきに拘らず最初に勾留を請求した日から十日以上を経過した同年四月十三日に至つて公訴を提起している(記録一丁)右は前述した理由により刑事訴訟法第二百八条の違反であり同法第三百九十七条第三百七十九条により右公訴に基いた原判決は破棄せらるべきものと思料します。

第二点原判決は訴状の謄本が適法に送達せられざるに判決をした違法がある。

刑事訴訟法第五十四条により準用せらるる民事訴訟法第百六十八条第百六十九条の規定によれば在監者に対する送達は監獄の長に為すべくその送達場所は首長が監獄に関する事務を執行すべき場所である監獄であり偶々その首長が他の公務所の首長であつても監獄以外の場所は送達場所として許されないと言わねばならない。これを本件について見ると記録添附の送達報告書(三丁)に依れば本件被告人荒川幸夫に対する起訴状の謄本の受送達者は築地警察署在監警視総監となつて居りこれは被告人が当時代用監獄である築地警察署に留置されていたのでその首長たる警視総監が受送達者となつたものと解される。然らば本件起訴状の謄本の送達場所は築地警察署でなくてはならぬことは前段説明の通りである。然るに右送達報告書の記載によれば右起訴状の謄本の送達場所は千代田区霞ケ関一ノ一ノ一警視庁刑事押送係となつて居り築地警察署でないことは明瞭であり、本件起訴状の謄本は送達場所であるべき築地警察署に送達されざるが故に法の要求する起訴状の謄本の送達はなかつたものと言わねばならない。右押送係の首長が警視総監であるとしても右押送係に於ける送達が適法化するものではない。若し警視総監を首長とする公務所の所在場所であれば何処を送達場所としても宜いとするならば都内到る所に在る所謂巡査派出所を送達場所としても宜いことになり却つて事務の紛淆を来たすことになる。

以上の理由から見て本件起訴状の謄本の送達は不適法であり結局公訴提起の日である昭和二十四年四月十三日以後二月内起訴状の謄本の送達なく右起訴は起訴当時に遡つて効力を失いこれに対し原審が判決を為したるものとして刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八条により原判決を破棄すべきものと思料します。

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